【アニメ映画「この世界の片隅に」 2016年公開】
© 北浦敦子
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「この世界の片隅に」のヒットによって、スタンプラリーの企画も大盛況。
聖地巡礼を目的に呉を訪れるファンも多く、これまでにない人の流れが生まれていると、前編ではお話を聞くことができました。
その中で、私たち「のぼりラボ」として注目したいテーマ、それは「聖地巡礼で訪れる人の邪魔にならない屋外広告の活かし方」、そして「映画コンテンツを観光資源として活かすための屋外広告の役割」です。
これまで、「景観を害さない屋外広告」を探ってきたのぼりラボが、呉観光協会の平田(ひらた)さまを取材。
ある意味、激動の中にある呉市で今何が起きているのか、そしてこの先の展望を聞かせていただきました。
後編では、さらにディープな呉に迫ります。
参考リンク
聖地巡礼で終わらせない体験を広げたい。呉の片隅まで楽しめる観光資源を提案したい。
退役した本物の潜水艦を用いた「てつのくじら館」。迫力が凄い!
呉市の観光に大きな影響を与えた映画「この世界の片隅に」というコンテンツ。聖地巡礼だけでなく、今後どのように活かされたいと思われていますか?
「この世界の片隅に」がもたらしたインパクトは計り知れません。それでも私個人は、施設よりも、人と飲食の役割、「普段着の呉」が次の観光資源へつながると思います。
「普段着の呉」とは、またちょっとおもしろいワードですね。
「この世界の片隅に」聖地の活用は、ファンの人が集まるミーティングや呼びかけで、今後もいろいろと企画が出てくると思います。例えば物語の花見で登場した二河公園。こちらでは、実際に「お花見イベント」や「タンポポ探し」にファンの方が呉に来られると耳にしてます。
一方、「この世界の片隅に」を消費し続けてばかりでは、いつかは使い終わってしまう。コンテンツとして枯渇してしまう日がいつか来るかも知れません。その点についてのお考えはありますか?
私が観光協会の職員として、最近注目しているのは、やはりSNSの反応です。SNSを見ていると施設ネタよりも、呉の自然や飲食についての反応が結構多いんです。『この世界の片隅に』をイメージしてつくられた商品もでてきてます。例えば物語に登場する食べ物。「ウエハース付きのアイスクリーム」、「森永のミルクキャラメルを使うカフェオレ」とかです。
再現された「ウエハース付きのアイスクリーム」。
こちらは「キャラメルオレ」。すずさんも食べてた森永ミルクキャラメル付です!
ただ残念ながら「楠公飯」だけは味の問題で協力店が見つかりませんね(笑)。それと、「夜の呉」という魅力を味わって欲しい思いもあって、物語に関連した素材を使い、「すずさんカクテル」、「リンさんカクテル」を提供していただけるバーもでてきました。
物語とキャラクターをイメージして考案されたカクテル。すずさんカクテル(左)とリンさんカクテル(右)。おいしそう!
作品にカクテルは登場しませんが、作品のイメージや関連性から新しいアイテムを創作する姿勢は、歓迎するファンも多いと思います。
また、地元で長く続いている食堂や居酒屋、酒場、蔵本通りの屋台などは、どれも雰囲気のある空間と個性的な経営者がいらっしゃいます。若い人でも、くつろいで安心して楽しめるような酒場、呉の人は「バー」ではなく「スタンド」と呼ぶってご存知ですか?そうした場所でしか味わえない呉観光の醍醐味があります。
原作漫画には映画化されていないエビソードも残されていますよね。
そこから、今後の展開につながる可能性もありそうですね。
地図を見ながら歩いている人の中には、付箋をたくさんつけた原作漫画も一緒に持っている人もいます。昔の地図と見比べたりしながら、本当に作品や時代の追体験をされているんだなと思います。また、戦艦のあった場所など、実は自転車を使った方が回りやすい場所も多くあるので、サイクリストの企画やサポートにも期待しています。レンタサイクルの充実につなげていきたいですね。
呉地方総監部第一庁舎 夕暮れ
呉の人の気質もおもしろいと聞きました。何というか「呉人あるある」とかあるんですか?
ありますあります(笑)呉の人って最初は「無愛想でとっつき難いな」て感じるけど、話していると「あ、恥ずかしがり屋なだけなのか」って気付くんです。実際はとてもいい人なんだけど、照れてぶっきらぼうになっちゃう人が呉には多いですね(笑)
分かる気がします(笑)それから「呉グルメ」についても気になるところです。観光の大きな目玉ですよね。
フライケーキや呉焼き、細うどんなどのB級グルメは是非味わってほしいですね。それと、最近では行政のガイドブックや案内には出てこない「裏・名店」を求められることが多いですね。実は私自身、個人的におすすめの飲食店をストックしていて、そんな「秘蔵情報」を提供する機会もあるんですよ(笑)
© 北浦敦子
なんですかそれ!?滅茶苦茶気になります!是非、私たちにも教えてください!
本当に地元の美味しいお店って感じのところばかりです。渋いお店ですが、だからこそ、そこで出会える人たちとの触れ合いが、呉ならではの体験になると思います。お教えしますから、是非行ってみて下さい。楽しいですよ。
(※教えていただきました)
今回、映画「この世界の片隅に」に因みながら、舞台となった呉市の魅力を紹介させていただきました。正直、映画の続編などに期待する部分があったりしますか?
未公開エピソードを追加したバージョンが出る可能性はあるかもしれません。だけど私たちは、映画をきっかけにして、呉の魅力を広めていくことが仕事だと思っています。公開している全国の映画館に、呉市のパンフレットを置かせていただいているのも、その一環ですね。だからこそ、本当にこの映画の存在ってありがたいなと感じています。
歴史の見える丘公園
映画「この世界の片隅に」で呉を知り、興味を持ち、聖地巡礼として訪れる人が増えました。
そして、これからは呉という街の魅力、歴史の魅力、人の魅力を広く伝えることで、観光を通じた呉の活性化が進むのではないかと思います。
最後に、呉市の観光協会からのメッセージをお願いします。
この呉の片隅で見つけてくれてありがとう。
すずさんが抱いた思いを、この街と人の出会いから実感してもらいたいです。
今日は興味深いお話をありがとうございました。
空前のヒット作となった映画「この世界の片隅に」は、舞台となった呉市に大きな影響を与えていました。
聖地巡礼という新たな層の観光客、注目度が急上昇した観光資源、SNSのクチコミ効果で掘り起こされるディープな地元情報。
これまでに無かった動きに、観光協会をはじめ「普段着の呉の人々」も戸惑うことが多いことでしょう。
しかし、それらを呉市の未来につながる新しい胎動として受け止め、ポジティブに捉えていく力強さを、お話の中で感じました。
映画の聖地巡礼とは、作中に登場する舞台に足を運び、その風景に立つキャラクターの目線に自らを並べる「体験」が重要な意味を持ちます。
「物語の世界に自分も入りたい」という欲求は、現在のVR(バーチャルリアリティ)にも繋がる感覚とも言えます。
しかし、もしそこに不躾な案内表示などが立っていたら、まさに雰囲気台無し。一瞬で現実に引き戻されてしまうことでしょう。
邪魔者として扱われ、場合によっては「残念な聖地」として情報が拡散してしまう可能性すらあり得ます。
しかし、歴史的な意味合いや、劇中としての対比を紹介することで補足的に「聖地」への理解を効果的に促進する屋外掲示の重要性も無視できないものがあります。
ただし、その際の設置には、最低限「写真撮影の邪魔にならない設置」といったレベルの配慮は当然必要。
目立つことや引き込み効果よりも、作品の雰囲気や周囲の風景の文脈に沿ったデザインと設置方法を十分に考慮することが、結果として「適度に」親切で、喜ばれる「聖地」として作品と共に愛されることでしょう。
美術館通り
追記:
余談となりますが、ポップジャパンが作ったカープ応援グッズである「勝ちタイツ」。のぼりラボでも度々登場しています。
なんと「この世界の片隅に」の漫画原作者・こうの史代さんが、舞台あいさつの壇上でお召しになられていたとか!
恥ずかしながら、その情報をキャッチしたのは随分あとになってから。リアルタイムで喜べなかった時間差の吉報に「嬉しいけど無念」という、なんだか良く分からない感情が社内に巻き起こりました。
リアルタイムで喜べなかった「勝ちタイツ」。ちょっと残念?
ご出身が広島県で、比類なきカープファンだと噂のこうの先生。
いつか「このカープ愛を足元に」というテーマで取材できればと、個人的な野望をお伝えしながら、まだまだ快進撃を続ける「コノセカ」ワールドに、皆様どうぞご期待ください。
参考リンク
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写真 : コピーライト© 北浦敦子
取材協力 : 呉観光協会【https://www.kure-kankou.jp/】
この世界の片隅に公式サイト【http://konosekai.jp/】
のん 公式サイト【https://nondesu.jp/】
のん 公式ブログ【http://lineblog.me/non_official/】
双葉社「のん、呉へ。2泊3日の旅」【amazonリンク】
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