こんにちは。ポップジャパンの石川です。お菓子屋さんの前から失礼します。
今回、のぼりラボは山口県柳井市(やないし)にある製菓会社「あさひ製菓」を訪れました。
こちらの会社は、山口県民ならば誰もが知っているお菓子屋さん「果子乃季(かしのき)」を運営され、今や看板商品でもある「月でひろった卵」、通称「月たま」を製造されています。
不肖、石川も山口県の出身ということもあって「月でひろった卵」はワンランク上の「いいお菓子」として幼少期よりインプットされていて、帰省した際には今でも必ず食べています。
ふわふわとした生地に包まれた優しいカスタードクリーム。そして上品に入れ込まれている栗のつぶが食感にアクセントを加える名品。
しかしこちらの商品、直接の購入となると山口県内でしか手に入りません(※インターネット通販には対応しています)。
そもそも「果子乃季」自体が、山口県内にしか出店していないのですが、そこには「山口県の企業」としてブランドを確立したいというあさひ製菓の想いがありました。
今年100周年を迎え、さらなる躍進を目指すあさひ製菓の社長取締役「坪野恒幸(つぼの つねゆき)さま」にお話を聞きました。
100年続く山口県ブランドとしての歩み
「本日はお忙しい中、ご対応いただきありがとうございます。早速ではありますが、最初に会社の歴史からお聞かせ下さい」
「創業は大正6年(1917年)なのですが、実を言うと正確な日付まではよく分かっていません。創業時の明確な記録に残っておらず、「大正6年」から始めたということで、今では言い伝えのように聞いています(笑)」
「100年という歴史の長さが感じられますね。創業された場所は、現在会社が建っている場所と同じですか?」
「いえ、違いますね。柳井市内には違いないのですが、柳井市に千歳(ちとせ)という地名がありまして、そこで創業しました。そこの地名を取って、「チトセ屋」という名前で商売を始めました。お菓子の製造と、老舗菓子店の今で言う「OEM製造」、そしてお菓子の大手流通の取次店をやっていました」
「「チトセ屋」としてしばらく商売をされていて、その後「あさひ製菓」と名前が変わるきっかけは何だったのでしょうか?」
「あさひ製菓と名前が変わったのは戦後です。戦時中は中国の天津(てんしん)で軍のお菓子工場をしていました。戦後、日本に引き上げてきて、新たに商売をはじめようとしたのですが、物がありません。お菓子を作る材料も無い時代ですから、古物の市を開いていました」
「お菓子製造以外のことをやっていた時期があったとは驚きました」
「当時、そういった市は結構あちこちに色々あったらしいですね。市を開く日は決まっていて、ウチはゼロのつく日である10日、20日、30日に市を開いていていました。ただ「0(ゼロ)の市」というのも響きが良くないので「あさひ会」と名付けました。ゼロを「朝日(あさひ)」に見立てたんですね」
「その「あさひ」が、今の社名につながるのですね」
「そうですね。市の名前である「あさひ会」がそのまま「株式会社あさひ会」となり、それが「あさひ商事」になって、そして現在の「あさひ製菓」となりました」
「果子乃季」- お菓子に込めた伝統と季節への想い
「その後「果子乃季(かしのき)」がオープンします。私も出身が山口県の岩国市なものですから、「果子乃季」は以前から利用していました。こちら運営会社は「あさひ製菓」であり販売店舗では「果子乃季」と使い分けていると考えればよいのでしょうか?」
「そうですね。「あさひ製菓」が運営している「果子乃季」と考えていただければと思います。他にも「シュシュ」や「シュクルバン」と、いくつかのブランドを持っています」
「「果子乃季」という名前には字の組み合わせも含めてオリジナリティがありますね。ここにはどのような意味や想いが込められているのでしょうか?」
「大型の小売店を始めようとした時、やはり「名前をどうしようか?」という話になりました。「かしのき」という響きのイメージだと「お菓子の木」となりますが、実はここがポイントで、「果子乃季」の「果」は果物(くだもの)の「果」としています」
「お菓子の「菓」ではありませんよね。危うく僕も間違えてしまうところでした」
「実際に、店名が世の中に浸透するまではよく「間違ってるよ」って電話かかってきてました。「草冠が無いよ」って(笑)」
「どうして、お菓子ではなく果物の「果」としたのでしょうか?」
「日本書紀に書かれているお菓子の元々の由来は、「橘の実」だったそうです。昔は果物がお菓子だったことが原点にあって、そこから果実の「果」を取りました。当初「果子乃季」の商品はすべて何か木の実や果物をいれるというコンセプトを持ってはじまりました」
「日本書紀からコンセプトのイメージを作り上げるとはスケールが大きいですね。「果子乃季」が「木」ではなく季節の「季」を使われていることにも、深い意味がありそうです」
「今では野菜でも果物でも一年中買える様になって、季節を感じられる物って少なくなりましたよね。実はお菓子って季節を大切にするんです。5月になると柏餅、夏になったら水ようかんといった感じですね。ですからお客様にも「お菓子で季節を感じて欲しい」という気持ちで「果子乃季」の「季」は季節の「季」としています」
「日本書紀由来のコンセプトからお菓子で感じる季節の移り変わり。一つのお店の名前に様々な意味や想いが込められているのですね」
「でも、今でも結構間違えられますね。新入社員に店名を書かせても大体間違えます(笑)」
「そんな「間違われやすさ」も乗り越えてブランドを確立している「果子乃季」というお店。お店自体の造りや装飾などで、心がけていることはありますか?」
「やはりウチのメイン商品は「月でひろった卵」となりますので、お客様に「このお店のメインは何?」ということが分かりやすい売場づくりを心がけています。「お菓子がいっぱいならんでいるけど、何がいいのか分からない」ってお店は、困ると思うんですよね。」
「確かに、お店の一番が明確だと、そのお菓子を選べば間違いないだろうし、幾つか種類の違うお菓子を買うときでも、組み合わせパターンが考えられますよね」
「それから、先程の話でもありましたが「果子乃季」では季節感を大事にしていますので、お客様がお店に入ったときに「あ、柏餅なんだ!」とか「七夕なんだな」とか季節を感じられるようにして、プラス「今いちばんのオススメは何か」ということがわかってもらえるように気をつけています」
「お菓子を通じて歳時記を感じてもらいたいということですね。お菓子にも旬があると言うことなのかも知れません」
「月でひろった卵」- 全国区で認められた山口県ブランド
「そして看板商品である「月でひろった卵」ですが、こちらは「果子乃季」が出来た時と同じタイミングで発売されて今年30周年という歴史がありますね」
「厳密に言うと航空会社の機内食として、一般発売の3ヶ月ほど前から「月でひろった卵」は世の中に登場しているんです」
「それは初耳でした」
「その後「月でひろった卵」の一般発売と同時に「果子乃季」がオープンしました。この時、航空会社からストップがかかっていたんです。「これはすごくいい商品だから、機内食に採用したい。その期間が終わるまでは売らないでほしい」と。だけど実際は、すごい量を生産していたので、一般で売ろうとしても追いつかなかったんですけどね(笑)」
「それだけ機内食でも好評を奏したということですね。確かにあの美味しさを考えると分かる気がします。僕は今広島に住んでいるのですが、「果子乃季」は山口県にしか無く広島で「月でひろった卵」が買えなくて寂しい気持ちもあります。「果子乃季」が山口県のみにお店を構えることには何か方針や想いがあるのでしょうか?」
「そうですね。「直売店は山口県の中だけでやろう」と社内で決めています」
「単純に商圏という点だけで見れば、東京や広島、福岡といった人の多いところの方が広がりそうですが、あえて山口県内にこだわる理由をお聞かせ下さい」
「あさひ製菓は山口県のお菓子屋なので、山口県の代表的なお菓子を作りたいと思っています。県外に出て、大阪や東京に出店して「どこにでもあるようなお菓子屋」にはなりたくありません。「東京にあるものが山口県にもあるんだな」というお菓子ではなくて、「あのお菓子は山口県に行かないと買えない」というお菓子。「月でひろった卵」をお土産でもらって食べた人が「どこで作っているんだろう?」と思ったら山口県だったと。「じゃあ、ちょっと行ってみようか」って山口県に来てもらえるような。そんな菓子屋になりたいなと思っています。「山口県に行ったら、何かわからないけど「果子乃季」ってお菓子のお店がいっぱいあるな」って思われたいですね」
「山口県ブランドとしての誇りと自負を感じました。今回取材にお邪魔させていただくにあたって、ホームページの方も拝見させていただいたのですが、様々なコラボレーションもされているそうですね」
「テレビゲームのファイナルファンタジーですね」
【コラボケーキ登場!!】
今年で30周年を迎える人気ゲーム「ファイナルファンタジー」とのコラボケーキが登場!!
詳しくはコチラの販売サイトにて★(※ネット販売のみになります。)https://t.co/aU72PMMoGZ— 果子乃季 (@kasinoki_yanai) 2017年2月2日
「そうです。そうです。他にもサンリオさんとかもありましたが、そういったコラボレーションの話と言うのは、先方から持ちかけられたりするものなのでしょうか?」
「ウチから売り込むということは無いですね。サンリオさんからは「今度こういったキャラクターで」って提案をいただきます。ファイナルファンタジーは間にYahoo! JAPANが入っているんです」
「Yahoo! JAPANとは意外でした」
「Yahoo! JAPANがお互いをマッチングしています。「ファイナルファンタジーは30週年ということですが、やったらどうですか?」という話をして、「作るにあたっては、こういう会社がありますよ」と紹介したりですね。ウチはYahoo!さんとはずっと昔から取引があったので、ソフトバンクホークスとのコラボもしましたし、実績も在るので「あそこだったら、変なことでもやってくれるだろう」なんて思われてるんじゃないかな(笑)」
「…実は今、コラボレーションの話が秘密裏に進んでいるなんてありませんか?ここだけの話で教えていただけると嬉しいのですが…」
「今ですか?んー…」
「今は無いですね」
「キッパリとありがとうございました」
体験型イベントで掴むお客様の心
「「果子乃季」と「月でひろった卵」が30周年。そして「あさひ製菓」さまも100周年ということですが、何かこれからイベントなどの予定はあるのでしょうか?」
「もうすぐスタートします。7/14日限定ですが、「月たま」が半額になりますよ」
「半額とはすごい!こういった企画などは社員さんの中からでてくるのでしょうか?」
「そうですね。新しく「月でひろった卵のぷりん」も出したりして試食会をしています。それから100周年記念限定として「月でひろった卵プレミアム」があります。ちょっと大人向けの味ですね」
「素材のこだわりが強く押し出されていますね。まさにプレミアムです」
「それから、こちらも100周年記念ですが「はとこの夢」というサブレです。昔「鳩子サブレ」というものがあって結構人気だったんですけど、これが「割れる」ということで、あまりにもロスが多いし「送ったら割れる」ということでストップしていました。それを今回はミニにすることで割れにくくして、もう一回「はとこの夢」として出します」
「あさひ製菓ではお祭りも盛況と聞きましたが、どのような催しがされているのですか?」
「年に二回ほど大きなお祭りがあります。「あじさい祭り」と「工場祭」ですね。その時は工場内を全部開放します。もちろん、実際の製造現場までは入れませんけど、見学通路は全部開放して、そこで販売もします。のぼり旗を建てたりポップをぶら下げたりしますよ。今年のあじさい祭は6月の23~25日に開催しました」
「あじさい祭にはどの位のお客さんがいらっしゃるのでしょうか?」
「3日間で4万人ですね。因みに柳井市の人口が3万2千人くらいです。」
「凄い!柳井市の人口よりも多い人が訪れるんですね!因みに、あじさい祭の内容というと、どういった催しがおこなわれるのでしょうか?」
「結構大掛かりなイベントでして、2割引の商品券を販売したり「小豆を感覚だけで100gぴったりにしたら1万円」なんてゲームがあったり、あとはケーキバイキングですね。他にも写真コンテストは毎年やっていて、入賞作が翌年のチラシの表紙に使用されます」
「基本的にはこの3日間だけの限定販売が多いということで、プレミアム感もありながらお得なイベントも多いお祭りということですね」
「銀行と台湾の大学とあさひ製菓のコラボで作った商品というものもありました。台湾で開催されたスイーツコンテストで優勝した作品をあさひ製菓で商品化したものです。台湾の大学生がウチに来て一緒に作りました。ケーキ教室もあります」
「単にお菓子が安くてお得なお祭りというだけではなく、体験型としての要素もたくさん盛り込まれているのですね」
「子どもたちから「こんなケーキを作りたい」といったイラストを募集して、3つほど選んだものを、一日1個、選ばれた子どもたちを呼んで「作りたいケーキ」を一緒に作ったりしています」
「子どもたちのアイディアを形にされているのですね」
「そのままのものを造りましょうということでやっています」
「子供のアイディアです。中にはビックリするようなものもあるのではないでしょうか?」
「子供らしさのある自由な発想です。おもしろいものが多いですよ(笑)」
今あるブランドを再構築。未来を見据えた仕掛け
「これからあさひ製菓さまが事業を発展させていく中での展望をお聞かせ下さい」
「商売としては、現在ブランドが幾つもありまして「果子乃季」「シュシュ」「シュクルバン」それぞれが単独であるのですが、これらのブランドを複合した店を出していきたいなと考えています。また最近は畑の付いたお店がありまして、そこで野菜や果物を作ってそれを利用してお菓子や料理を出しています。」
「これはもう、レストランですね」
「例えば「シュシュ」と「シュクルバン」をくっつけて、そこに畑をつけるとかですね。色々な今やっていることを組み合わせることで、新しいものが生まれてくるのではないかと考えています」
「なるほど。様々な相乗効果の形が見られそうですね。例えばそんなお店づくりの中で、のぼりや布製品の活躍できる可能性があったりするでしょうか?」
「やっぱり、のぼり旗というものは「お店をみつけてもらうこと」に大きな威力がありますよね。例えばお店を新しく作っても、お客様が定着するまで時間がかかるんですよね。特にこちらのお店は車が通らないところにあります」
「先程の畑がついたお店ですね」
「通り抜けもできない道なので、野立て看板などで無理やり誘導する必要があります。外観は建物が見えないようにしています。生け垣で囲って畑があってそこを通り抜けて初めてお店(建物)が見えるという造りです」
「そこは、敢えてそういった造りにされているのでしょうか?」
「そうです。やっぱり、その方が楽しいですから。駐車場からお店を見せたくなかったんです。入ってみて「わっ!」って思うようなお店にしたかったんです。ただ、そのデメリットとして「お店だと分からない」ってことがあるんですけど」
「そこをのぼりや看板で補えればということですね」
「お店が在るということ自体を分かってもらうためには、のぼり旗や看板が結構重要じゃないかと思いますね。今でも「「果子乃季」どこにあるんですか?」って「果子乃季」の目の前から電話がかかってきたなんてこともあります(笑)」
「そんなことがあるんですね(笑)そこにのぼりや看板の可能性があるということですね」
「ただ、デザインは難しいでしょうね。「店舗のイメージを壊さず、何のお店かわかるように」というのは難しいと思います」
「まさに、針の穴を通すようにポイントを突く必要がありますね。「「果子乃季」はコッチ!」といった安易なデザインだと台無しになりますし」
「お洒落で奇をてらいすぎると、また何て書いてあるのか分からなくなりますよね。思いっきり「苺ショート」なんてストレートに書かれても、それはお洒落でもないですから。そこのバランス感覚は難しいですよね。なにか良い提案があればお願いします」
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100周年を迎えたあさひ製菓。そして30周年となる「果子乃季」と「月でひろった卵」。
そこには、長い歴史の中で生み出され培われた技術と知識、そして山口県を大事にするブランドとしての意識と誇りがありました。
そして、これから先は自身の持つ力を複合させ組み合わせることで、101年目から先の未来につながる新たな施策を打ち出そうとしています。
例えば、約120坪の農園で野菜や果実、ハーブを育て、採れたての作物を用いた料理を提供する「果子乃季UbeFarm」。
明確なコンセプトに基づいた一見お店とは分かりづらい佇まいは、訪れた人を驚かせ、新鮮な気持ちを演出したいという想いが込められています。
しかしその試みは、そのまま「お店の場所がよく分からない」というデメリットにも直結しています。
お店のコンセプトを害さず、お客様への明確で気の利いた案内役となる看板やのぼり旗。
そんな難しい課題に、のぼりラボもまた未来を見据えて挑戦していきます。
取材のご協力、ありがとうございました。
取材協力
あさひ製菓株式会社 坪野社長
〒742-0021 山口県柳井市柳井5275番地
Tel.0820-22-0757 / Fax.0820-22-3875
WEB http://kasinoki.co.jp/
E-Mail info@kasinoki.co.jp
イベント情報
・果子乃季30周年大感謝祭
7/6~7/17限定:プリンの試食会を毎日開催!(果子乃季全店対象)
7/13~7/17限定:1000円(税込)お買上げごとに300円分の金券プレゼント!
詳しくはこちら
http://www.kasinoki.co.jp/kasinoki/02e.htm
・月でひろった卵誕生祭
7/14日限定:「月でひろった卵」シリーズ全品50%OFF!
7/13~17限定:1000円(税込)お買上げごとに300円分の金券プレゼント!
月でひろった卵1年分(365個)が当たる「累計生産数クイズ」!
詳しくはこちら
http://www.kasinoki.co.jp/kasinoki/02e.htm
・錦果楼19周年祭
詳しくはこちら
http://asahiseika.sakura.ne.jp/kasinoki/02e-nisiki.htm
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